東京都知事賞
乾漆蒟醬箱「とくん」 鈴木 元子(漆芸)
この度は東京都知事賞を賜り身に余る光栄です。厚く御礼申し上げます。
作品名の「とくん」は胎動を意味しています。形は丸く、可愛く、撫でやすくを意識し、外から感じる微かな気配と内にある未知なるもののパワーを表現しました。技法は丸刀彫の蒟醬を全体に施し、未知なるものと出会えたきらめきを表現するため、身の立ち上がりに螺鈿を施しました。
支部展への出品は6年ぶりになります。作品を作ることは本当に大変なことです。未熟で思うようにいかないことばかりです。それでも止まっていた時間の中で“作りたい”欲求が膨らんでおりましたので「作るってしんどい。でもやっぱり楽しい‼」というのが今の私です。この度の受賞を励みに制作を続けて参りたいと思います。
最後に家族の皆さま日々作業に協力していただき本当にありがとうございます。
朝日新聞社賞
楡木画飾箱 島田 晶夫(木竹工)
このたびは「朝日新聞社賞」を頂戴し誠にありがとうございました。御指導いただきました先生方、支えてくださった皆様に心より御礼申し上げます。
私が工房を構える北海道の石狩郡当別は冬がとても長く、豪雪地帯でもあります。風の強い日には降り積もった雪が粉雪のように舞い、そして風紋のような独特な文様を雪山に残していきます。厳しい自然の作り出すこの美しい光景を木を使って表現したいという思いでこの「楡木画飾箱」を制作致しました。北海道産の神代楡と楡を使用しています。木目を交差することで雪のキラキラと光る様子を表現してみました。
緊張感を持ち新しことに挑戦しながらの精一杯の制作でしたが賞を頂けた事は本当に励みになり心より感謝申し上げます。
まだまだ課題も多く、今後も研鑽を続けて参りたいと思います。今後ともご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
日本工芸会賞
硝子蓋物 和泉 香織(諸工芸)
この度は、日本工芸会賞を頂き、誠に有難うございました。思いがけない事で大変驚き、続けてきて本当に良かったと心から思っております。これまで、ご指導下さいました先生方をはじめ、研究会の方々のおかげと感謝申し上げます。
研究会で“やりすぎ”と指摘されていましたので、やりすぎないようにと、呟きながら制作に入りました。
この作品は宙吹き技法のレースガラス棒を吹き竿に横に巻きつけ、そのまわりに無色透明の溶けているガラスを何層も巻きとり、平面、穏やかな局面を研磨で形を削りだしました。蓋は楕円なので、慎重に少しずつ削り合わせました。素材を生かすため、厚みを作り、側面の円形の切子が立体間、反射、映り込むように施しました。
まだまだ反省点はあります。これからも試行錯誤しながら、より良い作品を制作していきたいと思っております。
MOA美術館賞
紬一楽織着物「白い朝」 西橋 はる美(染織)
MOA美術館賞を頂けたこと、心より感謝しております、ありがとうございました。
一楽織りは、緯糸を変えて何反も試みてきましたが、今回は緯糸を、淡い青で冷涼さを、白から黒に近い色で初雪の朝景色を表現しました。新しさが携える、期待とか緊張感が好きです。
地織りに、かすかに縦縞を入れた地味な織りなので、緯段だけでどこまで纏められるか考えて、左右の繋がりを、微妙にずらしを加えて織りました。
自然の拡がりと澄んだ空気、厳しさなど、日常の感動なのですが、私自身この作品と出会えて幸せを感じています。
今回の受賞を心の糧に、これからも努力してゆきます。
三越伊勢丹賞
紺青銀彩花器 寺本 守(陶芸)
光栄なる賞にお選びいただきました事、大変嬉しく感謝申し上げます。
今の大変な状況の中とても大きな喜びです。
陶芸の仕事を始め50年あまり、様々な技法を試みてまいりました。
銀彩の作品は、何年も模索し迷い続けてきましたが、これからも、迷いながらの創作の道が私の人生だと思っております。
川徳賞
巴合わせ糸目釜 江田 朋(金工)
この度は川徳賞を頂き誠にありがとうございます。昨年の奨励賞に続いての受賞で感激いたしております。この作品はシンプルかつ大胆な造形を念頭に制作しました。鐶付を釜と一体とし、大きな曲線で抉ることで釜全体に動きを持たせました。見る角度によって表情が大きく変わるので、楽しんでいただければ幸いです。
長野垤志先生の下で三年の修業を終えるこの機に賞を頂けたことが非常に励みとなりました。今後も精進しますのでご指導の程宜しくお願い致します。
日本工芸会東日本支部長賞
友禅訪問着「花簾」坂井 敦人(染織)
伝統工芸展と私の出会い
工芸展との出会いは人其々ですが、私の場合は人生観が一転する程の感動を受けました。作品の前に暫く釘付けになりました。あれは確か弟六回日本伝統工芸展だったと記憶しています。当初は出品する等夢の又夢でした。毎年秋の工芸展を楽しみに一度も欠かさず見に行きました。時には昼食も忘れて見る事しばしば有りました。七年八年と見て居る内に職人の性が蠢き出して、此の素晴らしい作品は人が作ったもの、彼も人なり我も人なりの言葉を思い出し、制作意欲が徐々に湧いて来ました。併し当時は継続して出品出来る環境では無く数年かけて態勢を整え漸く第18回日本伝統工芸展に初出品初入選しました。あれから半世紀余り紆余曲折は有るものの一度の迷いも無く今日に至った事は、あの感動が原動力になったと思います。世界に誇れる日本の工芸を育んで下さった諸先輩に感謝申し上げます。
奨励賞
彩色器 輪笠 伸好(陶芸)
この度は奨励賞を戴き誠にありがとうございます。全く思いもかけず驚きましたが、なによりも常日頃からご指導頂いている先生方や諸先輩方、支えて頂いている方々には本当に感謝いたします。そしてこの方々に喜んでいただくことが出来てとても嬉しいです。
今回の作品は近年取り組んでいる仕事で山間から見える朝焼けや夕焼けをイメージし、それらを赤色の顔料と炭化焼成による窯変の組み合わせで表現しています。しかしまだまだ形と装飾のマッチングが甘く未熟で試行錯誤している状態であり、この精度を上げていく事が最大の課題だと考えています。
コロナ渦で工芸にも厳しい時代となってしまいましたが今回の受賞を励みにしっかり前に進み、より良い作品を創り出せるよう励んでいきたいと思います。ありがとうございました。
奨励賞
江戸小紋着尺「井桁格子」 廣瀬 雄一(染織)
この度は奨励賞という名誉ある賞を賜り身に余る光栄です。
この名誉は私個人の力だけではなく、より自分らしい作品が生まれるようお導きくださった先輩方のお陰であると実感しております。
今回の作品『井桁格子』は祖父から受け継いだ”道具彫り”の型紙を使い染めました。細かい文様ですがキレのある型紙で、染めている最中も気持ちの良い感覚を覚えました。江戸小紋の凛とした表情を表現したいと考え色は黒墨を選びました。
今後も工芸会の先人先輩に少しでも近づけるよう日々弛まぬ努力を重ねて参りたいと思います。
奨励賞
乾漆螺鈿合子「游々」松本 真奈(漆芸)
この度は奨励賞をいただきありがとうございました。
今回は亀をモチーフに作品の制作をしました。4年ほど亀とともに生活しています。そのユニークな形に魅力を感じ亀の甲羅を立体的に乾漆技法で表現しました。うちの亀は何か求めて泳いでいる。その何かを光に見立て、水の揺らめきと供に伏彩色の螺鈿技法で表現しました。
漆芸には素地や加飾技法など多種多様な表現技法がありますが、その中でも器物として自由な形を生み出せる乾漆という技法に魅力を感じ作品制作をしています。これからも様々な表現に挑戦し美しい造形、それに合わせた加飾を追及していきたいと思っております。
奨励賞
紫銅花器「響花」 松本 育祥(金工)
この度は奨励賞をいただきまして誠にありがとうございます。
ご指導頂いております先生方、さまざまなご助力をいただいている諸先輩方や周囲の方々に深く感謝申し上げます。
今回の作品は去年採取し忘れたであろう球根から芽を出し、綺麗な花を咲かせた花が最初のモチーフになりました。上に別の鉢が乗っていた為に大きく曲がった状態で発芽していたのですが、鉢をどけると曲がりながらも力強く成長していきました。その姿が印象的で作品内に取り入れたいと思い、強く柔らかく立ち上がっていくイメージで原型を作りました。
全体が湾曲したフォルムなので重心がずれてしまわないように、面の取り方を工夫したり少しだけ肉厚を変えてあります。色上げは出来るだけ植物的な印象をもって貰いたかったので金属的な光沢を抑え優しく深みのある肌を目指しました。
これからも多くのことを学びつつ作品作りに励んでいきたいと思います。ありがとうございました。
奨励賞
神代杉造格子文様箱 林 哲也(木竹工)
この度は、奨励賞を頂き誠にありがとうございます。ご指導頂きました先生方、ご支援して頂いた方々に深く感謝申し上げます。
今回の作品は鳥海山から出土した埋もれ木を使いました。神代杉をあたかも編んでいるかの様に格子文様に組み合わせたかったので、細か過ぎない柾目の木を選びました。縁の界線黒檀の間に0.2ミリの柘植を挟み、変化を持たせました。内箱は高さの違う三段の箱に不規則な格子文様をあしらい開けた時に趣を感じて頂ける様に工夫を致しました。
なかなか正解がどんなものなのか分かりにくい世界に身を投じている者として、この様な賞を頂けるのは嬉しくもあり、励みにもなります。これからも迷いながらかと思いますが精進していきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。
奨励賞
木芯桐塑木目込「鰯雲」 福井 道子(人形)
この度は奨励賞を戴きましてありがとうございました。今回の受賞は、亡き前田金彌先生のご指導のもと、その仲間と一緒に、長年にわたり続けてこられたことにより出会えた幸運だと思います。
今回の作品は、新聞に投稿されていたある俳句のひとつ“寄り添って行かうと思ふ鰯雲”に親近感を覚え、自分なりのイメージを膨らませて作りました。古布を使うことがありますが、色や柄がイメージに合うものであっても、古布故に繊維が弱くなっている部分もあり、木目込みの過程で思わぬ難儀をしたりもします。
胡粉の取り扱いをはじめ、未熟な部分もまだ多くありますが、今回の受賞を励みに、一つ一つ丁寧に作っていくことで、その課題をクリア―していければと思います。
ありがとうございました。
奨励賞
瑪瑙茶碗「ひつじ雲」 河野すゝむ(諸工芸)
この度は、奨励賞を頂き誠に有難う御座いました。思いがけない受賞に喜びと重みを同時に感じております。これまでご指導下さった部会などの諸先生方には、心より感謝申し上げます。
私は、諸工芸部会の「砡」というカテゴリーに属するのですが、これが絶滅危惧種に指定される程に僅少な存在ですので、良くご存じ無い方も多いかと思います。それは瑪瑙などの貴石を彫刻・研磨する先人から受け継がれた伝統技術です。今回受賞させて頂きました「茶碗銘:ひつじ雲」も、瑪瑙という1tを超える大きな原石から最良の部位を厳選し制作したものです。この石は外観が馬の脳に似ている為そう付けられたそうですが、様々な石の景色が魅力になります。今回の作品に於きましても形成の段階で苦労するのがその硬さで、モース硬度7と非常に硬い原石を2~3ミリ減らすのに何時間も費やす事もありました。
「艱難汝を玉にす」祖玉が磨かれて美しくなる様に、もう若くは無いのですが、苦労はやはり買ってでもする方向で今後とも日々精進を心がけていきたいと思います。