東京都知事賞

「神代桂彩色一松糸目筋箱」 本間 昇(木竹工)

このたびは、思いもよらぬ東京都知事賞をいただき、このうえもない喜びでございます。
長年寄木に携わってきた私は常に寄木の進化を考えて作品を作ってまいりました。今回の作品の制作には昨年の二月より入り、試行錯誤のうえ市松をアレンジした作品に仕上げることができました。
市松模様の材料には、黄色はウルシ、緑はホウ、そして本来ならばアカグスを使うところ不本意ながら赤色の外材を用い、その三色を寄せて挽き割って使いました。糸目筋から覗く寄木のストライプが編み込んだようにも見え、角度によって違う表情を見せてくれます。素朴な有色材でも、木は使い方によって活き、面白さを表現することができると再確認した次第です。通産で半年はかかった作品ですが栄誉ある賞を頂き努力した甲斐がありました。これからも新しい作品に挑戦し、技術の研鑽に努めてまいりますのでご指導の程お願い申し上げます。有難うございました。

本間 昇

朝日新聞社賞

ガラス飾箱 「水面に藤紫」 由水 直樹(諸工芸)

この度は身に余る賞を戴きまして大変嬉しく、光栄に思っております。
これまでご指導戴きました師をはじめとしまして諸先生、先輩方に改めて深く御礼申し上げます。
今回の作品は、水面に映り込む満開の藤棚をイメージして制作いたしました。
薫風の中で水面に揺らぐ藤を、どの様に表現しようか迷いに迷いましたが、飾箱の形態を採る事で、まとまらなかったデザインをコンパクトにまとめる事が出来ました。箱の形状は身の下部が小さく蓋側の上面が大きい、アンダーカットの形状にしました。この形状にした事で、鋳造石膏型が吊り中子型という非常に難しい型にならざるを得ず、大変苦労致しました。色に関しては、自然光下と蛍光灯等の室内光下で発色が変わるガラスを少量使用しています。室内光の下では水色ですが、自然光下では藤色に変化します。
この作品を見て頂いた皆様が私のイメージを感じて下さればいいな、と思っております。
この賞を励みにこれからも自らに問い、考え、より一層精進して参ります。

由水 直樹

岩手県知事賞

友禅訪問着「そよ風」 菅原高幸(染織)

この度は思いもかけずこのようなすばらしい賞を頂きまして誠に有難うございます。まさか賞を頂けるとは夢にも思っておらず、ただただ恭悦しております。
これもひとえにご指導、ご鞭撻を賜りました諸先生方のおかげと心より感謝申し上げます。
木々の木漏れ日の間をふわりと吹き抜ける風を描いてみたく、またそれを着物として身に纏う形にしたく制作しました。
私は昨年始めて入選させて頂いた折、自分の技術的な未熟さを痛感しました。
今回の作品についてもまだまだ解決すべき課題が山積しており、道程の遠さに眩暈を覚えます。
この度の受賞は今後制作していく上で大きな励みになりました。
精一杯精進したいと存じます。

菅原高幸

日本工芸会賞

 「白金彩線刻文鉢」椎名 勇(陶芸)

この度は日本工芸会賞を戴き誠にありがとうございました。これまでご指導頂きました先生方や作陶を支えてくださった皆様に深く感謝申し上ます。
この作品は陶土をろくろで円筒形に挽き、口と底を楕円に変形して成形しました。そこに線刻と泥彩と白金彩で光の帯をイメージした文様をを施しました。見る角度によって器の形と文様の関係が変化するよう試行錯誤しました。
私自身が今年50才という節目の年でもあり今まで続けてきた表現を再確認しながらの政策でした。そんな折に賞をいただくことができ今後の制作にむけ背中を押して頂いた気持ちです。有難うございました。

椎名 勇

 


根津美術館館長賞

紬織着物「瀬音」 鈴木典子(染織)

この度は、根津美術館館長賞をいただきまして、ありがとうございました。
思いがけないことに、驚きと共に大変嬉しく思っております。
これもひとえにご指導くださいました先生と支えて下さった方々のおかげと心より感謝しております。
この作品は、信州の小さな川のとぎれることのない心地良い水音と、その清々しい流れを表現したく、縦絣と絵絣を用い制作いたしました。
自分の感じたものを絣で表わすには、まだまだ課題も多く、日々真摯に仕事に向きあっていかなければと思っております。
そして、今回の受賞を励みに益々精進して参ります。
今後ともご指導下さいますよう、よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。

鈴木典子 

MOA美術館賞

朧銀花器 「花風」 広沢隆則(金工)

この度はMOA美術館賞を頂き、誠にありがとうございました。
伝統技法である真土型鋳造法で制作しています。技法は大まかに、粘土による塑造、石膏原型、鋳物土による鋳型制作、鋳型焼成と鋳造、仕上げ、表面処理、研磨、着色で、細分すると200を超える工程があります。扱う素材は次々に変化し、鋳造してやっと金属になります。そこまでで仕事としてはちょうど半分です。造形技法である鋳金は、器形と地金の2つの要素で表現します。出来るだけそぎ落とした簡素な器形と、印象的な口作りを心がけています。地金は合金の割合と熱処理を工夫し、ねらいとする色調に近づけます。
この作品は春の心象風景です。「花風」とは、桜の花の盛りに吹く風を意味します。朧銀の柔らかな色調で春の穏やかな陽光を、雲形に切られた口で吹き渡る風と花びらを表現してみました。軽やかな印象を出すために、作品下部は僅かに弧を描くように造形しました。
評価していただけたことは大変うれしく、励みになります。今後も真摯に制作に向き合って行きたいと思います。ありがとうございました。

広沢隆則

三越伊勢丹賞

 「釉刻色絵金銀彩大皿」 伊藤北斗(陶芸)

この度は、三越伊勢丹賞を頂き、誠にありがとうございます。
陶芸を始めて30年以上になりましたが、 磁器の色染付に、こだわって試行錯誤の繰り返しでやってまいりました。
今回の作品は、近年取り組んでいる、色釉を、点描で描いて本焼し、その後上絵付で焼き重ねていくという技法で、魚の群れを表現してみました。
今回の受賞を励みに、形と絵付け文様の完成度を、さらに深めて、多くの人に少しでも美しいと思われる作品を、作ってゆきたいと思います。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

伊藤北斗

 


川徳賞

「乾漆弁柄蒔二段重」 築地久弥(漆芸)

この度は川徳賞を頂き誠に有難うございます。自分にとって新しい表現にチャレンジした作品でしたので、このような評価を頂けたことも嬉しく思います。
日頃、自分にしか表せないものは何か、自問自答し創作は始まるのですが、それはとても苦しい時間となり過ぎていきます。その過程で生まれた作品は納得するものではないにせよ、次へのステップとなります。新しいことへの挑戦は思わぬ評価も受けますが、既存の焼き直しではなく、前向きの制作姿勢が私の信条とこれからも続けることでしょう。
モチーフは植物の実のイメージを形態に表し、石膏型に自作の刃物で線上の彫りを入れて表現しました。仕上げは変り塗の中の鉄錆塗りを参考に私なりに表現しました。
これからも自分の可能性を信じ創作に励みたいと思います。

築地久弥

日本工芸会東日本支部賞

布目象嵌箱 「椿」  市川正美(漆芸)

この度は、思いがけなく東日本支部長賞を頂きありがとうございます。
今までの作品と変わりませんが、好きな花の一つである椿を模様化し、花芯の所を少し彫り下げて、立体的に見えるように布目象嵌で仕上げました。
ともすると眠りそうな自分に活を入れ、新たな気持ちで一歩ずつ頑張ってゆきます。
これからも日々精進を重ねていきたいと思います。

市川正美 

奨励賞

「線文花器」 朝倉由紀子(陶芸)

この度は、第五八回東日本伝統工芸展の奨励賞をいただく事が出来、大変感激しております。ありがとうございます。
黒い粘土をろくろ成形し、高台は四角に、そして上に延びるにつれ、円へと変わっていくというフォルム。生地を磨き還元焼成。パラジュウムによる上絵付を行う。
この仕事を数年好んで行っております。
光線の具合で銀彩が明るく光って見えたり、又影の部分では、黒陶の中に埋没しそうな部分も有り、その光と影をこれからも追求して参りたいと思っております。
これからもいただいた賞を励みに、自己をみつめながら、創作に励んで参りたいと思います。
今後とも先生方のご指導を宜敷くお願い申し上げます。

朝倉由紀子

 


奨励賞

刺繍帯「月虹」小林浩代(染織)

この度は奨励賞を頂きまして誠にありがとうございました。思いも寄らない受賞に大きな驚きと共に喜びでいっぱいです。
今回の作品は以前から心惹かれていた、なかなか見ることができない「夜にかかる虹」というどこか神秘的な現象を、自分なりに表現したいと思い、これまでと違った図案の構成を考えました。
紬の濃い地色に、色や太さを考えながら撚り合わせた糸を織り繡いの刺し方で乗せていくそのボリュームやバランスに苦労しました。
図案の構成も技術もまだまだ未熟で反省ばかりの作品づくりですが、刺繍の美しさを作品の中で魅力的に表現できるよう、一層精進してまいりたいと思います。
これまでご指導下さった諸先生方そして励まし支えて下さった多くの方々に心より感謝申しあげます。
また今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

小林浩代 

奨励賞

 「曲輪造盛器」 高橋玲子(漆芸)

この度は奨励賞を頂戴致しまして、誠にありがとうございました。
ここまで長い間続けて来られましたのもすばらしい先生方との出会い、そしてご指導のお陰だと心から感謝申し上げます。
今回の作品の曲輪造は、厚さ二ミリの檜の柾目板を六十枚曲げ、重ね、組み本体を造りました。
暗闇から昇る太陽を赤い一本の線とし、闇との境をぼかし、太陽から射す光を細い金の線で表現しました。
これからも、なお一層精進して参りたいと思います。
ありがとうございました。

高橋玲子 

奨励賞

金銀銅杢目金板目鍛飾箱「包む」林美光(金工)

金銀銅杢目金板目鍛飾箱は、天然秋田杉の板目紋様を杢目金の技法で表現したものです。
秋田県は昔から金、銀、銅等、各種鉱山が栄え、金銀細工に於いて幾多の名工、名品を産んで来た歴史があります。中でも江戸時代の名工、正阿弥伝兵衛の名は広く知られ、刀装具などの数々の作品が残されておりますが、取分け稀有で技術的難度が高い金の杢目金の創始者として知られています。
本作品は一度失われたこの技法を永年の研究の末現代に再現したものです。また過去の作品には存在しなかった「板目紋様」を苦難の研究の末に実現、鍛金打ち出しによる高難度の造形と合わせ、伝統技術を高度に昇華させ現代に蘇らせた作品です。

林美光 

奨励賞

千筋組扁壺花籠「晶晶」江花美咲(木竹工)

この度は思いがけず奨励賞を頂きましてありがとうございました。これまでご指導いただいた先生方、支えてくれた家族のおかげと感謝申し上げます。
今回制作した千筋組扁壺花籠「晶晶」はひごを平行に並べて組み合わせる千筋組と言う技法を使用しています。作品正面の中央部と側面に使用しているひごは、中心部を太くして両端を細くしています。このひごの変化で花籠全体の上下の幅を変えました。籠の上下を曲げて中央にくびれを作る事で全体のバランスをと整えました。
籠の中央部を支える張り胴輪に巻くトウの色に金茶色を使用して全体が黒一色の籠の見ためにポイントを作りました。
今回の作品の見所は、千筋組と曲げによるひごの重なりで生じるモアレと言う模様です。モアレ模様は見る角度によって変化します。この模様の変化が光の瞬きのように感じられたので、作品名をきらきらと輝くさまと言う意味の「晶晶」と名付けました。
この度の受賞を励みにより一層精進して制作に打ち込みたいと思います。

江花美咲

奨励賞

木芯桐塑木目込「君の力」青木時子(人形)

このたびは奨励賞を頂きまして誠にありがとうございました。
私はこれまで女性の和服やドレス姿の人形を制作しておりましたが、数年前より実在の人物をモデルに構想を練り、観察し、制作に取り組んでまいりました。今回の作品は柔道を習っている孫を題材に、試合の熱い瞬間を表現制作しました。造形では顔や手足、全てを力強く表現する事は難しいものでしたが、完成を思い浮かべ木を彫り、道着では二種類の布を貼り重ね、切磋琢磨しながらも楽しく仕上げた一体です。
武道館に何度か見学に行き、学生達の礼儀や精神力を目の当たりにし自分の気持ちが引き締まり、改めて努力と感謝の気持ちと共に、今後は賞を励みに新たな人形制作を心掛けてまいりたいと思っております。

青木時子 

奨励賞

有線七宝香炉「雅稜」谷脇信子(諸工芸)

この度は奨励賞をいただきまして、誠にありがとうございます。思いがけない受賞に驚きとともに、大変うれしく思っております。
アクセサリーでもと思って始めた七宝でしたが、素晴らしい先生に出会い、御指導いただくなかで、すっかり魅了されてしまいました。
今回の作品は、旅先で見た山々のなだらかに伸びる稜線や重なり合う稜線の雄大さと美しさに感動し、それをモチーフに制作いたしました。
毎回のことですが、制作にあたっては、形、デザイン、色で悩み、焼成で思いがけないトラブルにあうこともあります。
まだまだ技術的にも未熟で、課題の残る作品が多々あります。
この度の受賞を励みに一層努力してまいりたいと思います。
今後とも御指導下さいますようよろしくお願い申し上げます。
ありがとうございました。

谷脇信子