東京都知事賞

「無名異線紋壺」 六代 伊藤 赤水(陶芸)

思ってもいない賞をいただきまして大変うれしく思っております。
今年世界遺産になると言われている佐渡金山麓から採れる無名異土は非常に赤く、非常に細かく、非常に収縮率が高い事が知られています。その無名異土で作った「無名異線紋壺」は素地の上に黒という強くミステリアスな色の釉薬をかけ、その上から紋様を施す事によってインパクトを与えられたら、という思いで制作しました。
「成功する方法はたった一つだ。成功するまで失敗し続けることだ。」ある偉人の言葉です。今回もたくさんの失敗をしました。
失敗にへこたれず、これからも賞の名を汚さないように制作に励みたいと思います。


朝日新聞社賞

市松文様盛籠「円舞」中村 雅人(木竹工)

この度、朝日新聞社賞をいただいたことは望外の喜びであります。このような賞をいただけたのも、ひとえに今までご指導いただいた先生方、先輩方、ならびに支えてくださる皆様のおかげと改めて感謝申し上げます。
今回の作品は、ウクライナやガザ地区で起きている戦争で、罪のない人々が日々亡くなっていくのを目にして心が痛み、平和への願いを込めて作ったものになります。
タイトルの「円舞」の通り、一目ずつずらして編んだ市松文様で、人々側になってワルツを踊る様子を表現しています。一日でも早く戦争が終わり、皆が輪になって踊り楽しむ日が戻ることを願っています。
今回の受賞を励みに、今後も表現方法としての竹を考えながら、日々努力を重ねてまいります。この度は誠にありがとうございました。


日本工芸会賞

 「乾漆根来鉢」大橋 (漆芸)             

乾漆の作品を初めて伝統工芸新作展(現東日本伝統工芸展)に出品してからほぼ40年がたち、この度日本工芸会賞をいただくことになりまして、誠にありがとうございました。と同時に、大変驚きました。
御指導いただきました先生方、支えて下さった皆様に感謝しています。
今回の作品は、旋回し循環する用な動きと朱色の花のイメージを重ね合わせた様な非対称な形を根来塗で仕上げました。
次は何を作ろうかとよく考えますが、少しでも漆の魅力を引き出し表現できるように、この度の受賞を励みとして、また新たな気持ちでコツコツと頑張っていけたらと思っています。


三越伊勢丹賞

 江戸小紋着尺「山道に米」廣瀬 雄一(染織)

この度は三越伊勢丹賞を賜り大変光栄に存じます。
初出品の第五四回東日本伝統工芸展からこの十年間、沢山の先生方からご指導頂き作品づくりに励んで参りました。この「山道に米」の作品は伊勢型紙道具彫による型紙を用いて染めました。糊に硬さを残す事でデザインの切れ味が出たと思います。
今後も型染とは何なのか小紋とは何なのかを自問自答しながら自分らしさを作品に表現していきたいと思います。この度の受賞に、心より御礼申し上げます。


川徳賞

卵殻蒔絵筥「雪待ち椿」 及川 倫子(漆芸)       

この度は川徳賞を頂戴し誠にありがとうございます。今時の言葉でいうところのライフイベントにより十数年振りに出品したこともあり、受賞の連絡を受けた時は驚きと安堵の思いで胸が一杯になりました。
うずらの殻を用いることで漆芸では難しい白色を表現できる卵殻の技法をメインに制作致しました。殻の処理、貼り方、蒔絵との併用などここ数年、卵殻技法を探求して参りました。手板や小品だと上手くいくのにいざ本番となるとアールのきつい筥の前に思うように捗らず完成するまでに想定以上の時間が掛かってしまいました。又ようやく卵殻の作業に慣れてきた頃に終わるという工芸あるあるに落ち入ることにも…。
作品が完成したことで見えてきた改善展、新たに試してみたい意匠などがムクムクと湧いて来ましたので、もうしばらくうずらの卵の爆買いが続きます。
最後にご指導、ご鞭撻を賜りました諸先生方、関係者の皆様、作品作り復帰への背中を押し続けてくれた同じ部会の鈴木元子さん、うずらの卵の消費と制作時間捻出に苦情を出しながらも協力してくれた家族へ心より感謝申し上げます。


アサヒグループ財団賞

「黄銅地錫引銀杏箱」 近藤 亮平(金工)               

この度は、続けてきた研究・制作に対して受賞という結果を頂きまして、誠にありがとうございます。
今回の作品は、舞い散り地面に折り重なったイチョウをモチーフにし、散った後も瑞々しさを失わずに美しくある様を表現してみたいと考えました。鍛造し成形した後に錫を引き、地の黄銅色を一旦閉じ込め、一枚一枚模様を彫り出す事で、散った後も鮮やかな色をたたえる様子を表現してみました。所々に布目象嵌でギンナンを表現し、全体の色味が単調にならないようにもし、見る向きによって煌めきが変わるイチョウの様子を楽しんで頂ければと思います。
今後も今回の結果を励みに、見ていただく方々に美しいと思ってもらえる作品作りを心掛け、更に精進してまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。


日本工芸会東日本支部長賞

硝子切子「深遠の杯」 高山 奈緒(諸工芸)          

約4年半、この作品の構想と制作に時間をかけました。そして完成して世に出せた充足感にいまだに浸っています。そこに日本工芸会東日本支部長賞という身に余るほどの賞をいただき、夢のような喜びです。 普段から大きな制作物において大切にしていることは吹いていただいたガラス生地を、切子作業前に自分の形に再形成するための研削工程を入れることです。この工程によって今回はこれまで以上に新しいガラスの美しさを発見することができました。
作品の特徴は切子でありながら両面に2種類の曇りガラスのニュアンスを再現したことです。完成間際は手磨きされた透き通る切子ガラスでしたが、柔らかく優しい光を纏わすために、最終工程で内側を曇らせました。外側の口元の文様を石仕上げの曇りの表現、内側の全面を砂でより効果的な美しさを探って半透明の仕上げにしています。外側透明と内側半透明が織りなす光と影の変化の過程において、作品が強く引き締まる効果の瞬間は目を奪われました。
制作期間は多くの方々にお世話になりました。本来であれば一人一人にお会いして気持ちを伝えたいのですが、ひとまず拙い文にて失礼致します。本当にありがとうございました。


奨励賞

「筒描菱紋壺」 亜美(陶芸)             

この度は奨励賞を頂き誠に有難うございます。大変嬉しく、感謝申し上げます。
伝統工芸新作展(現東日本伝統工芸展)に初めて出品したのが23年前のこと。振り返るとあっという間の時間でした。今回このような賞を頂き、ようやく新たな一歩を踏み出せた気がい致します。
私は美しい名前がついている「和色」が大好きです。一言に「赤」といっても様々な赤があり、自然に由来しているその色彩を、陶芸で一つ一つ表現することはとても難しいことですが、私はなるべくそれに近づけたいと思っています。又、筒描の線は抑揚をつけず敢えて平坦にし、色の組み合わせによって生まれる世界観を大切に制作しております。
これからも色彩豊かに、試行錯誤しながら美しいものを作っていきたいと思っています。


奨励賞

帯締 綾竹鎌倉組 繧繝「透水」中村 航太(染織)     

この度は奨励賞をいただきまして、まことにありがとうございます。
今回の作品「透水」についてですが、濃色のインクの色素が水分を含んだ紙にゆっくりと滲んで浸透していくような景色を表現しようと思い、酸性染料で染めた8色の絹糸を連ねて構成しました。カセ状態の絹糸を一色ずつ染めるところからの作業ですが、今回は特にグラデーションに不自然さを感じさせないようになるまで染め色の微調整に神経を使いました。
組み方では、48玉で絹糸を960本使用しました。綾竹台としては玉数が比較的多めですが、浮き文様を八ヶ所入れた他は技巧的なことはしておらず、配色での表現を中心にシンプルさと奥行きを両立した作品になるよう注意をはらいました。
このようなかたちでご評価いただけたことは大変嬉しく、励みになります。ありがとうございます。これからも益々精進してまいります。


奨励賞

 「小町藤文乾漆皿-白」 田中舘 亜美(漆芸)       

このたびは思いもよらず奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。
私にとって思い出に残る日本漆芸との出会いは第49回展でした。それから漆芸の道を志し、同じ展覧会でこのような賞をいただいたことは大変感慨深いことです。
胎は高台も含めて乾漆技法で、春に咲くハーデンベルギアという植物を螺鈿で表現しました。小さな花がのっぺりとしないように、光や色にわずかな変化を持たせ、葉は高上げして質感をつけています。背景には、穏やかさと広がりが作品のイメージと合っていたので金の砂子を選びました。
上手くまとまったはずの図案が素材や立体へと置き換わった時にチグハグしてくるところを「まぁまぁ」と和解させる作業が、制作において難しくもあり楽しいところであると思っております。まだまだ作るたびに研究改良の必要性を感じていますが、技法・素材の特性を活かせる挑戦をしていきたいと思います。
漆芸を繋ぎ届けて下さった皆様、また一緒に楽しんでくださっている皆様へ、心より感謝を申し上げます。この度の受賞を励みとして、これからもより一層研鑽を積んでまいります。 


奨励賞

接合花器「YOROT」大沼 千尋(金工)     

この度は図らずも奨励賞に選んで頂きまして誠にありがとうございます。これからの自分にとってますますの励みになり、とても嬉しく思っております。
この作品は、同じような系統で作り続けている作品のひとつで黄銅と純銀の地金の発色の対比を強調し試行錯誤しながらデザインしています。鍛金にて形を作り上げ、合わせ目をヤスリですり合わせし銀蠟付けする接合せ技法で地金の発色に注意を払い色上げしたものです。少々左に傾けバランスを崩した不安定さに「YROT」との思いを感じて頂けたら作りて冥利につきます。この度はありがとうございました。
 


奨励賞

神代杉造箱「六合」林 哲也(木竹工)       

「光華明彩 六合之内照徹」日本書紀に記される天照大神が出現された際の描写です。副題の「六合」とは、この世界の様子をイメージしてつけました。柾目の神代杉を45度傾けて木取り、4枚を使って木目を放射状に組み合わせて木画にしました。それにブラックウッド、サティーネ、柘植、朴、科木等を組み合わせた物を象嵌しました。象嵌する際に0.5ミリ程下げて嵌め込む事により立体的に見えるようにしました。蓋を開けると内箱の側板、底板に神代杉を用いて格子文様の木画を施し、開けた時の変化を楽しんで頂ければと考えました。今作品は本展作品の連作になります。前回と違い神代杉を使いました。材料が繊細な為に加工に大変苦労しましたが、名誉ある賞を頂き大変光栄に存じます。これに慢心することなく制作を続けていきたいと思います。


奨励賞

木彫木目込「幟工房」塚山 洋子(人形)     

この度は奨励賞を頂きまして、誠にありがとうございました。人形作りを始めて長くなりますが、思いもよらず受賞できましたのは、今まで困難な時も有りましたが、長く続けて来たご褒美を頂いたようで、大変嬉しく、有難いことでした。
これも今は亡き師匠や、お世話になった先輩の先生方のご指導と共に学んだ仲間達から多くの励ましを頂いて来たお陰様と心より感謝を申しあげます。
今では少なくなった手書きの「鯉幟こいのぼり」、子供達の健やかな成長を願い、大空に羽ばたく姿を思い浮かべながら一心に制作する工房の職人の心意気を感じて頂けたら幸いです。加須市に伝わる鯉幟作りを題材に、自分なりの物語を描いて、楽しみながらの作品でした。
いつも制作しながら迷い、悩むことばかりですが、師匠の教えを思い出し『様々な心の世界を表現できるのが人形作りの最高の魅力』少しでもその魅力に肖れますように「つくる」喜びを感じながら、見る人の心に響く作品を目指して、受賞を励みに精進して参りたいと思います。
今後ともよろしくお願い申しあげます。


奨励賞

有線七宝蓋物「芽吹き」佐瀬 たか子(諸工芸)  

この度は、奨励賞を頂き誠にありがとうございました。思いもかけないことで、大変うれしく思っております。今までご指導いただきました先生方に心から御礼申し上げます。
今回の作品は、いつも散歩している公園でまだ寒さが残っている道端に、力強く小さな花が一輪咲いているところを見て、その様子を表現したいと思い制作いたしました。
土の上の花は、銀線を使い華やかに、土地の下の部分も真鍮線を使用することにより、表現できたらと思い線を使い分けしました。ひとつの作品の中で、二種類の線を違和感なく互いに引き立てられたら面白いと思いチャレンジ致しました。
この作品を評価して頂いたことは、私にとって大きな励みになりましたので、これからも一層精進して参りたいと思います。
本当にありがとうございました。