初入選

「練積鎬紋花器」柴田 弘道
(陶芸)

古来城壁や擁壁を築くときの工法の一つを練り積みといいますが、今回の作品はこの手法をヒントにして成型したものです。白粘土にコバルトブルーの顔料で十数段階の濃淡の粘土を用意し、それを重ねて圧縮します。
そこから積み上げるための個々のピースを造ります。このピースを練り積みの手法で積み上げていきますが、部品の数が多いため、接着不良でのヒビが最大の難関です。
積み上げていくにつれ、グラデーションの効果が表れ、無限に繰り返す波のイメージが形になりました。
また、横に連続した波紋様に対し、縦に鎬を入れることによって、より波の効果が表現出来たかなと思っています。
更に、底辺に瑠璃釉を吹き付けることによって、果てしなく続く波の底へ、深淵へと続いていきます。
 

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初入選

「彩泥型染陶箱」杉沼 里美
(陶芸)

型紙の上から化粧泥を塗るステンシルのような方法で模様を施します。まず模様ありきで器の形状と大きさを決める事が多々あります。土を触る時間より、型紙を作る時間の方が長く、故に陶芸をしているというより布地を染めている感覚で模様を施しているかもしれません。
イスラムのモスクやアラベスク様式に惹かれ、アラベスク模様の幾何学的、左右対象、連続性という事を意識して図案を決めています。
また、私の泥彩技法は成形の生乾きの段階で施すため、湿度調整にもっとも気を使います。作品の乾燥の状態によって季節の変化を感じ、制作しています。

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初入選

「黒彩象嵌壺」髙木 彩子
(陶芸)

黒土で壺を作り、それに白土で象嵌をしています。
素焼き後、白化粧を何層かに分けて吹きかけています。
自由に遊んでいる雰囲気を出したいと思い、象嵌の線は下書きをせずに一気に描いています。
夏の日の光と影の風景を表したいと思いました。

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初入選

「青彩線象嵌鉢」田原 良蔵
(陶芸)

ブルーのグラデーションは、記憶の中にある冬の空を表しています。
グラデーションをどうかけるかで、空の表情が変わってくるのが自分にとって大きな魅力になっています。
磁土をロクロ成型しています。
削って表面を整えた後、生乾きのうちに細い棒で放射状に細い溝を刻み、青い顔料で着色した土を埋め込んでいます。
線をできるだけ真っすぐに引き、中央の一点に集めることで空間的な奥行きを表しました。
素焼きをした後、青系の下絵具数種類をエアブラシで吹き付けています。
エアブラシは、青い線に沿って薄目の絵具を細吹きで繰り返し吹き重ねることで、より多くの濃淡が出るように意識しています。
釉薬はかけずに本焼きをした後、上絵の具をエアブラシで吹き重ねて数回焼成しています。
素地の白と深い青をなじませることで透明感を増すとともに、しっとりとした質感になるよう仕上げました。

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初入選

「泥彩花文鉢」馬場 興彦
(陶芸)

岩石が風化し、そして堆積して陶土になります。陶芸はその陶土を高熱で再び岩に戻す作業とも言えます。この岩の質感を表現できればという思いで化粧土による彩色を考えました。作品の形と意匠は花をイメージしました。
制作はろくろ成形した乾燥素地にマスキングと化粧土の吹付を繰り返し、彩色していきます。素地の素材感を失わないように化粧土の吹付量を加減します。掻き落としによる線文は強くなりすぎないように素焼き後に行いました。中心部は緑釉を強めに、全体は化粧土を固定するため透明のマット釉を薄く掛けてあります。
これからも自然の美しさの中にモチーフを探し、作陶していきたいと思います。

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初入選

越後上布着尺「絣の祭典」林 秀和
(染織)

越後上布に受け継がれる絣柄、十絣、井桁絣、絵絣を組合わせ、賑やかに絣の祭典を表現しました。
色ですが、越後の春の風物詩、越後上布の雪晒しの風景をモチーフにし、白い雪の上に水色、青色、黒色の反物を雪晒ししている風景を絣の色で表現しました。

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初入選 日本工芸会奨励賞

乾漆合子「暁雲」伴野 崇
(漆芸)

銘のとおり乾漆造りの箱で、中には掛けごがついております。
仕上げは塗立とし、朱一色にいたしました。
テーマとしましては、中学生の頃の登山の思い出が主となっています。
長野県では学校登山といわれる授業があり、私の通った学校では、2日がかりで八ヶ岳の山頂を登りきるというものでした。
なにしろ3000メートル近い山を登るわけですから数ヵ月前からの訓練も含め中々に厳しいものだったと覚えています。
しかしその中でも記憶にあるのは登山2日目。真夜中に山小屋を出発し、明け方にようやく到着した山頂で目の前に広がった御来光の景色。今の今までの労苦は吹き去るほどの、強い感動を覚えたことは今も胸に焼き付いております。
まさしく雲海とそこに映る陽の赤をイメージし作品にしましたが、労苦の末に得る実りというと漆芸の作業工程も全く同様であり、テーマにこのことを選んだのも、今思うと漆芸作業と重ね合わせていたためかもしれません。
テーマはあくまで着想・概要であり、造形的にはそこから出来るだけ租借に努め、説明的にさせないことを今回の制作目標としました。
見てくださる方が色々と想像できる余地を残すことができる作品作りに努めましたが、思惑通りにいったことを祈っております。

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初入選

「楓拭漆大皿」太田 紗也
(木竹工)

楓の大皿を刳物と拭漆の技法で制作しました。刳物は、塊の材料から鑿などを用いて削り出すため、自由な造形を作れることが魅力だと思います。
造形のモチーフは、特に無かったのですが、アルバイト先の近くにある公園の池の鯉を眺めて少し参考にし、かつ、今ある材料がどうすれば最大限に活かせるのかを一番に考えながら制作しました。また、拭漆は木目を際立たせる技法で、今回使用した楓には美しい玉杢があり、その杢を活かすため拭漆で仕上げました。
材料の厚みに余裕がなかったり、拭漆も研ぎ直しをしたりと苦労した点も多かったですが、材料に向き合って制作する時間がとても楽しかったです。
楓は綺麗な白い材料のため、時間が経って漆が透けてきた時の表情も楽しみになるのではないかと思います。

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初入選

「桐六稜箱 」熊川 栄司
(木竹工)

この作品は、桐を主材とした長六稜形の箱です。蓋・身の側面の桐は、会津の柾目で僅かに外に膨れており、蓋天板には泉の水面のような桐の杢板を用いて甲盛りを施しています。
白い桐と対照的になるよう、足元や象嵌部に黒柿を使いました。蓋を開けて現れる身の上端には、補強と加飾を兼ねた楓の薄板を貼り廻し、そこには小さく円形に加工した黒蝶貝と鮑貝を象嵌しました。
特別な題名は付けませんでしたが、私の住む埼玉県ときがわ町の山や川を思い制作致しました。
今後の課題は、桐以外の材料、箱以外の作品にも挑戦して、作品の幅を広げていきたいと思います。

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初入選

「欅拭漆五弁皿 」丸岡 重信
(木竹工)

今回の作品は、今春の東日本伝統工芸展に入選した「欅拭漆六弁皿」の姉妹作です。この六弁皿を作っている時に、次回作に使う欅材を作業場に立てかけ、どういう形にするか思い巡らせていました。見ているうちに、この木目が「大」の字に見えてきて、五弁皿を作ろうと決めました。
普段は造形を優先し制作するのですが、今回は木目を重要視して制作に取り組みました。また、通常の五弁皿は中心角が七十二度ですが、本作では大の字の払いの部分を大きく見せる為、下の二弁を七十四度、腕の二弁を七十度と、微妙に角度を調整して全体のバランスを整えました。
今回の本展初入選で感じたことは、造形と木目の調和が重要と、改めて再認識致しました。

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初入選

木芯桐塑木目込「雪嵐」    内田 陽
(人形)

技法としては 木芯桐塑、木目込、布貼、彩色にて制作しています。具体的には、木を彫り、細部を桐塑で表現します。意匠は、玉虫箔を貼った布を木目込と貼ることで作成しました。
雪の表現は胡粉を散塗りすることで嵐の雰囲気を出しました。
スキーに行き、リフトの乗った問、降りるまで横なぐりの吹雪に遭うことがあります。
そのような時は、雪に向かってただただ首を縮め、肩を張り、耐えて、雪が息をつくのを待つばかりです。そのような時の心情を人形で表せたらと作成したものです。

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初入選

木芯桐塑紙貼「緑雨の杜」    原山 桂子
人形

何回目かの挑戦でしたが、今回は初入選する事が出来て、まぐれ?とも思いつつ、嬉しいです。
技法は、 木芯桐塑紙貼で、髪は岡谷市の銀河シルクを染めて使用しました。私は長野市に住んでいて、近くに戸隠という、おそばのおいしいところがあります。その日も友人と、おそばを食べての帰り道、曇っていた空から、真っ直ぐに落ちてくる雨の中、体がその雨の中に浮いている様な、不思議な想いをした時の事を形にしてみました。うまくいったかどうかはよく分かりませんが、緑という色の難しさには、切ない思いをしました。それで、図録を観た時は、少し失望しました。

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