第60回東日本伝統工芸展記念賞

生絹織着物「月夜野に」 吉岡政江(染織)

この度は、第60回の節目となる年に栄誉ある賞を頂戴し、誠に身に余る光栄に存じます。心より御礼申し上げます。
作品名の「月夜野」は、幼い頃に親しんだ小さな美しい町の名前です。最近、市町村合併により町名が変わってしまったことを知りました。作品は、昨年その地を訪ねた時の思いを形にしたものです。
技法としては、全体的に生絹の糸を用いて軽やかに仕上げ、道屯織りの部分は光沢ある絹糸を用い、立体感を出す工夫をしました。
全体の柄行きは、片身替わりにして変化を持たせたことで「月夜野」という土地のイメージがより具現化できたのではないかと思っております。
工芸会と出会い、実力以上の挑戦をする機会を与えて頂けることに平素より心から感謝しております。
この受賞を励みとして、感性や技術をこれまで以上に磨き、精進して参ります。
ありがとうございました。


東京都知事賞

栃造食籠 玉井智昭(木竹工)

この度は東京都知事賞を頂き、誠にありがとうございます。
また今回、鑑審査をされた皆様に御礼申し上げます。
木工芸には指物・刳物・挽物・曲物といくつか技法はありますが、私の場合は、轆轤に木材を取り付け、刃物をあてながら木地を作る挽物です。
今回の作品は「美しい造形」となるよう、強いこだわりをもって制作致しました。使用する材や木目は、作品に対してとても重要な要素ですが、造形と木目との調和を図ることと造形を強調するため、今回はあえて控えめな栃杢の材を使用しました。本来、栃は白っぽい材ですが、漆で木地固めをする際、呂色漆で黒色に着色することで杢の部分を際立たせています。
さらに、作品外側にアクセントで銀製の露玉を12か所配したことや、蓋を開けた時の演出効果として、身の内側に金箔砂子で加飾したことも特徴の一つです。
木と向き合って20年近くになりますが、「木」に対する感謝の気持ちを決して忘れることなく、かつ今回の受賞を励みに、今後も日々努力し精進してまいりたいと思っております。


岩手県知事賞

変塗蒔絵螺鈿箱「稚児車」 熊谷晃(漆芸)

この度は、第六〇回という節目の展覧会において、「岩手県知事賞」を受賞することができ、大変ありがとうございます。
自身の活動を振り返ると、多くの方に助けられて今日があることを実感します。学生時代に伝統工芸の世界を示していただいた増村先生をはじめ、岩手県安代町漆器センターでは、冨士原先生や町田先生に漆液の精製、産地のあり方などを学びました。秋田では初代学長の樋田先生に、「工芸が社会へ開くためには何が必要か」という問いを受け、未だ考えあぐねている状態です。また、制作が思うように出来ず、落選が重なり行き詰まっていたとき、秋田県展の審査員として来県されていた室瀬先生に、制作途中の作品を講評・指導していただいたことが、転機になりました。
その後、自身の制作テーマを「秋田の自然を形作る」と設定し、変塗りと蒔絵、螺鈿技法を総合して制作しています。今作品のモチーフは、秋田駒ヶ岳のチングルマを用い、豊かで厳しい自然の営みを表現しています。最後に、東北研究会の皆様にはいつも応援していただきありがとうございます。今後も東北に根ざして頑張ります。


朝日新聞社賞

乾漆合子「残照」 伴野崇(漆芸)

このたびははからずも朝日新聞社賞授与の栄に浴し、大変感激しております。
沈んだ陽に残された余光は、一瞬の間のみ辺りを赤に染め、そして消えていきます。残照を眺めるとき、幼い日に見たものや、ここまでに至る人生の淡い出来事をほんの一時、振り返り、そして未来の自分へと繋げていきます。
そんな情感を作品の中に落とし込み、形にすることに努めました。
見てくださる方がほんの少しでも何かを感じていただけたら幸いに思います。
今後も良きものを創っていけるよう努めてまいりたいと思っております。


日本工芸会賞

神代杉彩線木象嵌十二角箱 桑山弥宏(木竹工)

このたびは「日本工芸会賞」を頂き誠にありがとうございました。
御指導いただきました先生方、支えてくださった皆様に御礼申し上げます。
まず作品名にあります神代というのは埋れ木のことで、これは約2500年前 鳥海山の大規模崩壊で埋土された杉、その時間が作り出す独特な色味に惹かれ作品に用いました。
彩線象嵌というのは、木地に金属や木材等の彩線(細線)で文様を描く(象嵌する)技法という意味で名づけました。ここでは黒柿の真黒という部分を使っています。斜交する正方形の配列と彩線の調和、またその律動が今作のテーマであり見所です。
技術的な苦労も多い仕事でしたが、この様な形でご評価頂けたことは大変嬉しく、また励みになりました。
これからも象嵌でしかできない表現を追求し、益々精進してまいりたいと思います。


根津美術館館長賞

蠟銀花挿「颯々」 広沢隆則(金工)

この度は根津美術館館長賞を頂き、誠にありがとうございました。
伝統技法である真土型鋳造法で制作しています。技法は大まかに、粘土による塑造、石膏原型、鋳物土による鋳型制作、鋳型焼成と鋳造、仕上げ、表面処理、研磨、着色で、細分すると200を超える工程があります。扱う素材は次々に変化し、鋳造してやっと金属になります。そこまでで仕事としてはちょうど半分です。造形技法である鋳金は、器形と地金の2つの要素で表現します。出来るだけそぎ落とした簡素な器形と、印象的な口作りを心がけています。地金は合金の割合と熱処理を工夫し、ねらいとする色調に近づけます。
この作品は春の心象風景です。「颯々」とは、風の音や、風の吹くさま、を意味します。左右非対称の器形で風の流れを、朧銀の柔らかな色調で春の穏やかな陽光を表現しています。また口は、空高く浮かぶ一つの雲です。春風の中に、一人たたずむ姿をイメージしています。
評価していただけたことは大変うれしく、励みになります。今後も真摯に制作に向き合っていきたいと思います。ありがとうございました。


MOA美術館賞

銀泥彩磁鉢   井戸川 豊(陶芸)

この度はMOA美術館賞を頂戴し誠に有難うございました。これまでご支援を賜りました皆様に深く感謝申し上げます。
今回の出品作品は、自分にとって新しい装飾にチャレンジした作品でしたので、鑑審査の先生方の琴線に触れることができたかと思うととても嬉しいです。
普段から銀泥を磁器に施す質感と、色絵による具象の模様を組み合わせた技法に取り組んでいますが、まだまだ課題も多く、自分の非力さを痛感する日々ですが、作品に描いたモチーフの蜻蛉のように、爽やかに、常に前に突き進むことができるよう、研鑽を積んでいきたいと思います。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。有難うございました。


三越伊勢丹賞

被硝子切子鉢「瑞波」    小川郁子(諸工芸)

この度は、すばらしい賞をいただきまして誠にありがとうございます。本当に思いがけずの受賞で驚きつつも、大変うれしく思います。
今回の作品は、今まで扱ってきたガラスに比べ、上半分がかなり薄手であり、深いカットができず、なかなか見せ場を作る事が難しく試行錯誤しました。薄いガラスならではの透明感や軽やかさを大切にする方向性で、青緑の美しさが引き立つようカットし、磨き上げました。青緑からイメージされる穏やかで瑞々しい海の情景が表現できたらと思いました。
今までとは違う特性のガラスに対し、いつも以上に緊張感を持って制作に取り組んだ作品で賞をいただけた事、本当に励みとなります。これからもマンネリ化する事のないよう、新しい課題へ少しずつ挑戦して参りたいと思います。


川徳賞

赤絵墨彩椿文鉢   上田哲也(陶芸)

この度は栄えある賞を賜りまして誠にありがとうございました。
絹本と言う絹に描いた絵がありますが、しっとり輝く絹の光沢には心惹かれるものがあります。硬く焼き締まる磁器とは正反対のものですが、艶消し釉を掛けて本焼きしたのち雲母を焼き付けることで絹のような質の生地を得ることができました。これにマンガンを主とした彩料と赤絵、金彩で大輪の椿を描き焼成したものです。想いと技術のバランスをとることの難しさを感じ苦労しておりますが、今回は多少なりとも調和のとれた作品になったのではないかと思っております。
今、世の中は新型コロナウィルスにより大変な状況で喜んでばかりいられない心境ですが一日も早く日常が戻って落ち着いて創作活動ができるようになることを願っております。ありがとうございました。


日本工芸会東日本支部賞

友禅着物「山桜」   尾﨑久乃(染織)

この度は日本工芸会東日本支部長賞をいただきましてありがとうございます。
これもひとえに、ご指導下さいました先生先輩方をはじめ研究会の方々のおかげと感謝の気持ちでいっぱいです。
この作品は糸目糊とローケツ染の技法を併用し、山桜をモチーフにしています。
桜といえばピンクですが、静謐な空気感をだしたかったので白生地の白をそのまま生かした白い花にしました。何層にも重なる花塊の量感を増す為に明るさの違う点々を全体に飛ばし、幹は薄い色で背景になじませました。
これまでは、作品のイメージと自分のできる事の差があり過ぎて暗中模索の連続でしたが、何とかかたちにできた作品を評価していただけてとても嬉しいです。
山積みの反省点・問題点を一つ一つ組み立て直し友禅の多様性を表現していきたいと思います。
今後ともご指導、ご鞭撻賜りますよう宜しくお願い申し上げます。


奨励賞

縒舟   佐藤典克(陶芸)

この度は、思いがけず奨励賞を賜りましてありがとうございます。ご指導くださいました学識の先生方、切磋琢磨できる仲間と出会えた工芸会、そしてなにより、これまで学生時代よりご宴席を共にさせていただいた諸先輩方、に深く感謝申し上げます。
今回の作品は、縒―ヨリ―シリーズとなります。幼い頃、父とよく行った舟釣りの記憶を具現化したものです。穏やかな海。凪に浮かぶ舟。釣れぬ魚を待つ心境。静かな気持ちで制作いたしました。
まだまだ技術はもちろん、想いを伝える術に関しても未熟な私です。自分の成長と共により魅力的な作品を生みだせるよう、今回の事を励みに奮起し制作してまいりたいと思います。誠にありがとうございます。


奨励賞

江戸小紋着物「縄目養老に疋田縦ぼかし」  藍田愛郎(染織)

江戸小紋と言えば、一柄一色で離れて見ると無地に間違われる世界です。
そんな中、今回の作品は二柄二色でかつぼかしを入れて着物に挑戦してみました。
まず型紙選び。自分ルールの中、相性が良さそうな数枚を選び、デザインを考えながら二枚に絞り込み同時に色も。何回か試験を繰り返しいざ本番。最終的に色を少し変え、自分の中にある何かが表現出来た結果、このようなすばらしい賞がいただけたのだと思っています。
また小紋師にとって型紙は命です。先人たちが残した型と対峙しながら、親方から学んだ技術に自分なりの表現を足して、これからも新しい作品に挑戦していきたいと思います。
今後ともご指導下さいますよう宜しくお願いいたします。ありがとうございました。


奨励賞

螺鈿盛器「浮遊」 松田典男(漆芸)

この度は、奨励賞をいただきありがとうございました。前回の受賞から、四十一年を経て、ビックリしたのが実感です。
二十五年前から貝に興味を持ち、異なる貝が持つ色々な特長を、最大限生かすことを第一に考えてきました。中には美しすぎて、どう使用するか困った貝があります。
今回はそのような鮑貝で、貝文様の面白さや華やかな色合いを、観る方々が、心地良く感じて頂けるよう制作しました。
自然界には、まだ見ていない貝があると思います。出会える事を楽しみにしています。


奨励賞

面取釜「山嶺」 江田朋(金工)

受賞をホームページ上で知ったときは師匠の家に居て、真っ先に師匠に報告しました。
女将さんや兄弟子にも「おめでとう」と言って頂き本当に嬉しかったです。
私は今、埼玉県桶川市で二代長野垤志先生の下、釜師の修行に励んでおります。
長野工房では和銑と呼ばれる日本古来の鉄を原料に茶の湯釜を制作しております。
今回の作品は本体の造形はもちろんですが、鐶付や摘にまでこだわって制作したので、細部まで見ていただけると嬉しいです。
修行も三年目に入ろうとしておりますが、今回頂いた賞を励みにこれからも益々の研鑽を積み、師匠のような釜師になれるよう頑張ります。ありがとうございました。


奨励賞

千筋組花籃「そぞろ雨」 江花美咲(木竹工)

この度は奨励賞をいただき誠にありがとうございます。
今回の作品の題名である「そぞろ雨」とは、長く降り続く小降りの雨という意味があります。籠の上部分の束ね編を雲に、下部分の千筋組を雨に見立てました。
今回の作品で工夫した事は柾ひごによる束ね編と千筋組の組み合わせに挑戦した事です。束ね編は竹工芸の伝承者育成研修会にて勝城蒼鳳先生に学び、千筋組は師である田中旭祥先生に学びました。今まで自分が先生方から学んだ事を活かし、自分の新しい表現としてデザインして制作しました。
正会員となった今でも自分独自の表現を模索し考え続けています。新しい事に挑戦して自分らしさとは何かを探しています。
今回の受賞を励みに今後も精進して参ります。これからもご指導の程、よろしくお願い申し上げます。


奨励賞

木彫木目込「夏を惜しむ」 橋詰幸江(人形)

この度は、思いがけず立派な賞をいただき誠に有難うございました。驚きと共にうれしさでいっぱいです。
今回の作品は、最近スマホを始めたこともあり、その様な場面を表現しようと思い取り組みました。
作品で一番大事にしたことは、粘土で作り上げた様な、柔らかな雰囲気をどう表すかでした。手のしぐさ、指先、スカートの流れなどに気を配りました。
次に布選びです。試行錯誤しながら色々やっても、うまく行きません。やっと淡い色で格子柄の麻地に出会いました。
スカートをバイヤスで加減しながら貼ると格子の流れる様な動きが感じられ、
面白くなりました。行き詰った時、先生によく言われたことを思い出しながら制作をいたしました。
それにしましても、今までやって来れたのは、りっぱな先生方、よいお仲間の皆さんとの出会いでした。又コツコツと積み上げて行くことの大切さも感じました。この賞を励みに更に少しでも良い作品をと思い、日常生活も「丁寧に生きる」ことを心がけていきたいです。


奨励賞

有線七宝合子「合歓の花」 森永恵子(諸工芸)

この度は奨励賞を頂きまして誠にありがとうございました。思いもよらない受賞に大きな驚きと喜びでいっぱいです。
ここまで長い年数を続けて来られた事はすばらしい先生方との出会い、そしてご指導頂いたお陰だと心から感謝しております。
今回の作品は、自宅のベランダから見える、毎年花を咲かせ、心穏やかにしてくれる「合歓の花」に焦点をあててみました。やさしいピンク色が重なり合う、花のやわらかさと雰囲気を作品に生かしたく、フリットの濃淡を使い、奥行を出すために一番差しと最後の釉薬差しに加えました。自分の頭の中だけのイメージでしたので受け入れてもらえるのかと心配の作品でした。この様な評価をして頂きました事は大変嬉しいと同時に次なる作品への大きな励みとなりました。
これからもなお一層精進して参りたいと思っております。
ありがとうございました。