東京都知事賞

乾漆蒔絵箱「夜梅」 新井寛生(漆芸)

この度は東京都知事賞という身に余る名誉ある賞を賜り、大変おどろきと喜びを感じております。
このような賞を頂けたのもひとえに、いままでご指導下さいました先生方のおかげと、あらためて感謝申し上げます。
乾漆蒔絵箱「夜梅」は、古今和歌集にあります「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる」という歌をイメージして制作いたしました。夜の闇にひっそりとたたずみ、姿は見えずとも美しい香りをただよわせていいるような作品にしたいという想いで、静かな凹凸を側面に配し、また、上面には透き漆の奥に沈む金粉が、ほのかにかがやくよう塗りの回数や研ぎを調整いたしました。
この受賞を励みに、漆の美しさを引き出す作品制作を心がけながら日々努力を重ねてまいります。
誠にありがとうございました。


朝日新聞社賞

花籃「甘露」 大木淑惠(木竹工)

この度は朝日新聞社賞をいただき、誠にありがとうございました。
竹の美しさを活かして表現すること、作品を通して心を動かすことを目標に制作しております。
今回の作品は崖から清水が染み出し滴り落ちる様を見て、甘露やアムリタというのはこういうものなのでは、と感じた印象を形にしました。
ここ数年、竹で稜線を表したいと考案した稜折技法を用いて試行錯誤してまいりましたが、やっと表現につながる仕事になったと認めていただいたように感じ、この度の受賞は大変うれしく励みになりました。これからより一層竹の美しさを引き出せるよう精進してまいりたいと思います。
日頃よりご指導いただいている先生方、先輩方ならびに支えて下さる皆様に心より御礼申し上げますとともに、変わらぬご指導を賜りますようお願い申し上げます。 
 


日本工芸会賞

彩泥線紋花器 佐藤 漣(陶芸)

この度は日本工芸会賞を頂き誠に有難うございます。私にとって新しい表現にトライした落選覚悟の出品でしたので、この様な評価をして頂けた事を大変嬉しく思い、次への創作の自信になりました。
今回の作品は近年取り組んでいる線紋技法の継承ですが、新しいマチエールとフォルムと線紋加飾との融合のチャレンジです。フォルムは「静かに佇む鳥のシルエット」をイメージし成形いたしました。マチエールに関しては基本に戻り、白黒の表面変化をつけるため微量の金属などを加えた黒化粧土を叩き付けて焼成し、表情を出しました。その鳥が自然に纏っていたかのような模様になるように自然なヒビ割れ感が表れる、少し釉に近い白化粧土で線紋加飾をいたしました。このような白と黒の世界観を少しでも感じて頂けたら幸いです。
今回の受賞を励みにますます精進して参ります。今後とも宜しくお願いいたします。有難うございました。


三越伊勢丹賞

黒瑪瑙茶碗「神鳴り」 河野 道一(諸工芸)

ある冬の夜、ふと夜空を見上げると、突然漆黒の空を二つに裂く光と雷鳴が響きました。神鳴り、確か冬の季語だなと思い布団に入りました。翌朝も、闇を引き裂く雷光が何かに似ていると思いながら切断してある原石を見ていると、昨夜の神鳴りのイメージと重なる一つの原石がありました。瑪瑙の原石の色は薄灰色をベースに様々な模様が入ったもので、漆黒の夜空を表現するには薄く研摩していき、形を仕上げてから釉薬に漬け、更に電気炉で焼き上げ発色をさせます。思い通りの景色が出るかは、釜から出すまでは経験と直感でしかありません。本作は予想以上の景色を与えてくれました。
今回の受賞を励みに更なる精進を続け、砡の魅力を伝え、後継へと伝える事に邁進していきたいと思います。


川徳賞

紬織着物「涼風」 山本 千秋(染織)

この度、川徳賞という栄誉ある賞をいただいたことは望外の喜びでございます。
私が織の着物を制作する時には、まず最初に意匠を決めることに時間を割きます。
新しく考えたデザインを使ってみようとして時間を無駄にすることが多く、反省材料です。
今回の着物は以前一度入選し、その後十年以上使っていなかった意匠を基に制作しました。
絣の「ずらし」に頼らずに、長さを変えた絣を並べて曲線を描くという意図は表現できたと思います。ただ前作より絣を細くして、繊細さを出そうとした点は、あまり成功しませんでした。
未だに作りたい思いに技術が追いついていないという反省が残ります。年ごとに細かい作業が困難になりますが、これからも目指す作品を追いかけて、日々精進して参りたいと存じます。


アサヒグループ芸術文化財団賞

有線七宝合子「銀杏黄葉」 森永 恵子(諸工芸)

入選にホっとしたのと同時にアサヒグループ芸術文化財団賞の知らせに驚きと共に嬉しさでいっぱいです。この度は本当にありがとうございました。
これまでご指導頂きました先生、皆さま、支えて下さった多くの方々に深く感謝申し上げます。
二年あまりのコロナ禍の中、行動制限でストレスの溜まる毎日です。唯一、近所に散歩に出かける事が心和む気持ちを取り戻す時間となりました。
公園ののびやかに立つ銀杏の大木を眺め、春の柔らかな新芽、風にゆれる若葉、花が咲き実をつける頃、実りの秋、稲架掛けの頃黄色に色づく銀杏の葉等、春夏秋冬を表現してみました。
作品の制作にあたり未だ問題が山積みし納得のいくものではありませんが、これからもなお一層精進して参りたいと思っております。


日本工芸会東日本支部長賞

神代黄檗彩線木画十二角箱「瑞光」桑山 弥宏(木竹工)

この度は「日本工芸会東日本支部長賞」を頂き誠にありがとうございます。
まずご指導いただきました先生方、支えてくださった皆様、関係各位に厚く御礼を申し上げます。
私たち木工芸の世界で素材との出会いはよく一期一会に喩えられますが、それはまた材に触れるたび蘇る忘れえぬ記憶でもあります。薄暗い倉庫の中、窓から差し込む一筋の光に照らされほんのり黄金色に染まる材、その素性に弾む心。本作に用いました神代黄檗材との巡り逢い、その情景を抽象化し十二角形の箱としてみました。
近年手掛けてまいりました黒柿による彩線象嵌に加え視覚効果を狙った木画と定石に反し材を縦木に構成しているのも新たな試みです。
この様なかたちでのご評価は次作への原動力となり、より一層精進して参る所存でおります。 


奨励賞

青瓷裂変輪刻彫鉢 浦口 雅行(陶芸)

この度は奨励賞をいただきありがとうございました。今回の作品は素地を削り出して境界を作り、そこに異なる青磁釉を塗りわけて模様を表し、同時に意図的に貫入の大小の変化を見せることを目的としておりました。ところが原料の成分が微妙に変わってしまった為か、全体的に貫入が細かく入り、目的の貫入の大小の変化が思っていたように出せませんでした。ただそのかわりに、釉薬の溶け具合や質感が普段よりもやわらかく、いつもとは少し違うおもしろさを感じたため出品させていただいたところ、思わぬ評価をいただき、目から鱗でした。原料の土石類は当然自然のものですからこの様なことは良くあるのですが、自分だけでは気付なかった新たな可能性を教えていただき、審査して下さった先生方には誠に感謝申し上げます。
今回の喜びを励みとし今後も更に精進して参りたいと思います。 


奨励賞

刺繡訪問着「曙光」 石渡 由子(染織)

この度は奨励賞を頂き、誠にありがとうございます。憧れていた東日本伝統工芸展に出品することができたばかりか、思いもよらず賞まで頂き、驚きと共に嬉しく感慨深い思いでいっぱいです。このような賞を頂けたのは、ひとえに先生のご指導・激励があったからこそであり、感謝の念に堪えません。
この作品のタイトルである「曙光」とは、夜明けにさす太陽の光を意味します。かつて山頂から見た、稜線の辺りがほの明るくなったところに太陽の光が差し込む情景を表現したかったことと、更には、明るい兆しが見えることへの希望をイメージしています。この作品は、割り付け繍、拝み繍および菅繍の三つの技法で表現しており、特に割り付け繍は、自分の中で追及したいと思っている繍方です。この受賞を励みに、より自身の思いを表現できるよう、日々勉強していきたいと思っております。励みになる機会を与えて頂き、本当にありがとうございました。


奨励賞

花文螺鈿漆箱 中條 伊穗理(漆芸)

この度は、奨励賞を頂きありがとうございます。私の作品は、日々の生活の中で、カッコいいなァ、面白いなァ、奇麗だなァと興味を持ったその時々の気持ちを込めて、私色に表現したいと制作しているので、この賞は「楽しく生活していて良いね。」と誉められている様で嬉しく思います。
この作品は、螺鈿を漆面に埋め込まずレリーフ状にし、今まで通りに磨くと漆面も螺鈿も強すぎるので、地を和紙にし螺鈿も磨く事をせず、全体に艶なしに仕上げました。そして、今まではシャープペンシルを使って図案を起こしていた事で、どうしても図案が硬くなると感じていたのを三年ほど前から毛筆に変えました。まだまだ思う線はけていませんが、柔らかな線を出せる様になって来たと思います。ペンから毛筆に替えるのは、右利きを左利きに替える様なものなので大変ですが、賞を頂き誉めて頂くと根が単純なので、もっとがんばりたいと力百倍になります。ありがとうございました。


奨励賞

鍛黄銅扁壺「滉」 山田 藍(金工)

この度は奨励賞を頂きましてありがとうございました。
今回の作品は、黄銅を鍛金技法で扁壺に成形し、ゆったりとした流線文様の中に複雑な色合いが表現出来ればと思い制作いたしました。
銀蠟流しの線文様に金銷の線を重ねて、色の変化が表れる様にに仕上げました。
これからも新しい表現を求めて、創作して参りたいと思います。


奨励賞

神代杉象嵌箱 菅原 伸一(木竹工)

この度は思いがけず奨励賞を戴きましてありがとうございました。これまでご指導いただきました先生方、皆様に御礼を申し上げます。
今回制作しました神代杉象嵌箱は鳥海山で発掘された神代杉です。その場所は言葉にできない静寂の中にありました。
制作過程で表れる波紋に雨を感じて錫を象嵌しました。
今回の受賞を心の糧にこれからも作り続けてゆきます。


奨励賞

木芯桐塑布紙貼「夕やけ」 平田 倫子(人形)

この度は思いがけず奨励賞を頂戴し、誠にありがとうございました。ご指導、ご鞭撻を賜りました諸先生方、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
昔から家には人形がたくさんありました。長年母が作るのを見てきましたが、自分でもやってみたいと思うようになったのは近年の事。桐塑や和紙を使うことの面白さ、伝統的な技法の奥深さに一気に引き込まれました。
今回の作品は、夕焼けの中、たくさん遊んですっかり疲れたこどもを抱っこして帰るお父さん、そこに流れる温かい空気を表現しました。こどもの体がくたりともたれかかるように密着させるのに苦心しました。何気ない日常の落ち着いた柔らかい雰囲気が出るように、シャツに紬の古布を、靴には藍染の手ぬぐいの古布を使いました。
これからも、この受賞を励みに日々研鑽を積み、見る人の心をじわりと動かす人形作りを目指してまいりたいと思っております。


奨励賞

省胎七宝器「夏生る」 種澤 有希子(諸工芸)

このたびは、奨励賞を賜りありがとうございました。
これまでご指導ご支援いただきました多くの方々へ、心より感謝申し上げます。 
心がざわつく事や日々の生活に追われる中でも季節は確実に変わってゆき、身近にある小さな自然にその変化を教えられることが多くあります。
そんな人知れず繰り返される草木の躍動に心惹かれ、その季節感や空気感を作品に取り込むことが出来たならと試行錯誤をしております。
今回の作品のモチーフは艶やかな実をつけた山帰来、初夏の香りを感じていただければ幸いです。
省胎七宝は釉薬と銀線だけで成り立つ透明感が特徴です。その美しさと広がりに魅了され制作を続けております。 
これからも初心を忘れず精進を重ね、自分らしさを追求して参りたいと思います。