初入選

練込暈し文青桃組鉢 江沢 規予(陶芸)

この作品は、練込技法で暈し(ぼかし)の線の模様を入れた組鉢です。
練込技法を使うことで、手描きの絵付けでは表せないような細かい線の模様を作ることができます。暈し線の模様は、青の部分だけでも、濃度の違う青をいくつも作りグラデーションにしています。そのことでふんわりとした優しい雰囲気になっていると思います。
型は、陶土で作り素焼きしたものを使用しています。この型に合うよう、青色と桃色の配色のバランスを調整しています。また、青と桃を引き立たせるように白の顔料を加えた土も模様に加えています。
土は、磁土を使用していますので、発色がとてもいいと思います。釉薬をかけず焼締で仕上げているので、ツヤツヤせずマットな質感が特徴です。
縁の部分は、あまり厚くせず軽やかな印象になるようにしています。
全体的に優しく爽やかな雰囲気の器に仕上がったと思います。

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初入選

彩泥象嵌壺 長岡 博人(陶芸)

光に輝く水面をイメージし作成しました。
壺本体は黒泥を使用し、ひも作りで成形しました。象嵌による装飾は、① 半磁器土、② 黒泥と半磁器土の混合土、③ 5%青色顔料を含む半磁器土、④ 10%青色顔料を含む黒泥と半磁器土の混合土の4種類を使用しました。下書きした模様を針で約2.5 mmの深さに彫り、象嵌土を埋め、模様1箇所につき約200回木ごてで叩き、象嵌土を密着させました。象嵌土は超硬カンナで厚めにそぎ落とし、模様を削り出しました。素焼後、4種類の紙ヤスリを使用して象嵌部分の窪みが無くなり表面全体が滑らかになるまで磨き上げ、本焼成を行いました。
底部が絞り込まれ、重心が中心よりわずかに高く、滑らかな曲面を持つ壺本体の形状は、満足できる完成度で仕上がったと思っています。また、装飾に同系色2組の土(白色と灰色、青色と暗青色)を使用することで、奥行きを感じ、リズミカルな中に心地良さが感じられるよう配慮しました。

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初入選

小紋着尺角通し重ね文様「鼓動」 西藤 裕子(染織)

この作品は江戸小紋の中で格の高いとされる「三役」柄の一つ「角通し」の伊勢型紙を使用して染めました。「角通し」とは細かい正方形が縦横に連続して並ぶ文様です。四角の大きさや並ぶ間隔は様々で、たくさんの種類の角通し柄が型紙に彫られています。型紙を探している時にたまたま重ねて置いてあった2枚の角通しの型紙が花火のような美しいモアレを浮かばせていました。この美しいモアレを染められたら素敵だなと思い試作を始めました。
縦横まっすぐに彫られているはずの角通しを重ねて柄付けするとゆるゆると大きく流れる揺らぎが生まれたのは面白い発見でした。モアレを崩さないように柄を正確に糊付けする中、何度も心臓がキュッとなる場面もありました。一反染めあがった雰囲気が、染めている時の私の好奇心の鼓動のように感じられたので「鼓動」という題名にしました。好奇心が入選に導いてくれてとてもうれしいです。

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初入選

和更紗染着物「千成ほおずき」 三島 千鶴(染織)

草取りをしている時に印象深い植物に出会いました。
中心部分の5つの黒点がとても個性的で、コロンと垂れ下がる実は愛らしく、デザインしたいと思いました。
デザインが決まったら色分けをし、色ごとに型紙を掘ります。輪郭線は型紙が切り落ちないように4枚の型紙に分けて彫りました。背景部分は小さな正方形を3つ重ねるやり方に挑戦してみました。1色部分、2色重なっている部分、3色重なっている部分ができました。模様と背景とで合計14枚の型紙を彫りました。
染めは酸性染料を用いました。和更紗染めは型紙の上から丸刷毛で直接白生地に摺っていきます。摺り終わったら1時間蒸して水洗いをします。
時間のかかる染め方ですが、魅力ある手法なので続けていこうと思います。

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初入選

乾漆鮫皮塗盛器「海遊」 大上 博(漆芸)

鮫皮(エイの皮)は古くから、刀の柄、武具又は剣道具の胴等につかわれていて、堅牢な皮です。器に使用されているのは、あまり見かけません。鮫皮塗は皮表面の凹凸部に漆の塗りと研ぎを10数回繰返し、平らにする事で凸部が紋様として浮き出す技法です。↲
本作品は、乾漆技法で成形した上に鮫皮を麦漆(接着用の漆)で張り着け、黒漆で塗り上げました。乾漆技法と鮫皮塗技法と変り塗(表面の周り部分)の3種類の技法を行っています。

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初入選

銀透かし香炉「風薫る」 川嵜 遊(金工)

本作は、私が初夏の奈良に旅行した際に感じた、古から変わらず現代に吹く風をテーマに香炉を制作したものです。
作品名にある、側面部分の透かし彫りは草原を風が吹き抜ける様子を表現しています。これは、鏨という彫刻刀のような道具を用いて銀板に線刻した後、その周囲を切り、透かして制作してあります。
また、上面の黒く着色された真鍮の表面には、風によって波立つ水面が点状の錫引き象嵌によって表されています。これは、鏨を打ち込むことで上面に点状の窪みを作り、そこへ溶かした錫を流して研ぎ出しています。
上下の平らな板材と銀の脚部の外観は、自然と人工物の融合した現代の建築空間にも合うようデザインしました。
使う方がどのような香りを楽しもうかと想像が膨らむような、そんな香炉となっていれば幸いです。

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初入選

吹硝子鉢「花筏」 武井 盛彦(諸工芸)

この作品は色被せ、宙吹き成形にて制作したものです。
私は「水」をテーマにすることが多く、今回の吹硝子鉢「花筏」は“桜の花びらが水面を埋めつくし、紅色の絨毯となってゆるやかに流れてゆく”そんなイメージで制作しました。
赤(金赤)と黒の色ガラスは内側と外側のクリスタル生地に挟まれているサンドイッチ構造になっています。
口部を波状にすることでフォルム全体の柔らかさを出し、大きくうねったS字曲線で、ゆるやかな川の流れを表現しました。

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初入選

泥釉七宝蓋物「森のめざめ」 平林義教(諸工芸)

今回の七宝作品は泥釉という全て自分で調合してつくった釉薬を使っています。普段透明釉を使っていると泥釉はとても使いづらいものだと感じています。
以前から泥釉は銅板や銀板などの大きめの金属片を加飾する際に使える事に気づき、以前から試行錯誤を重ねてきました。漆でいう平文と同じように使える可能性のある技法ではないかと感じています。今回の作品は銅板から形を切り出したものと、太い銀線を遣い、素体の色はほぼ白色の一色で仕上げました。
全体の白色と銅板の茶色のような色のコントラストを軸にして、よく見ていくと細かい真鍮線や銀線がびっしりと見えてきます。春まだ早いシダ植物の形の面白さを表現してみました。

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初入選

硝子花器「兎」 山崎 葉(諸工芸)

吹きガラスとエナメル彩の技法を用いて、制作しました。
「グラール玉」と呼ばれる、作品よりも一回り小さい一輪挿しのようなものに、エナメル顔料で兎を描き、その上に溶けた硝子を巻き取り、兎の絵の部分を挟み込む形で吹き上げています。そして、うつわの形が仕上がった後に、野ばらの花と実を描いています。

春にはくつろぎ、秋には鼻先をひらひらと舞う蝶を見て、不思議そうな表情をしている兎の姿 ー 。
一作品の中で、季節の流れを表現したいと思い、描きました。
また、〝触れることのできないガラスの中の風景(今作では兎)と、徐々に朧げになっていき、捉えることのできない「記憶の中の風景」とが、近似している。〟と、常々感じていることを、表現へと繋げています。

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