初入選

「鯥五郎文水指」朝倉潔
(陶芸)

この作品は粗目の赤土を使ってロクロ成形したあと、白化粧土を筆で重ね塗りをして刷毛目を付けました。釉薬は石灰透明釉を吹き付けて還元焼成します。還元により白化粧土の薄い部分がグレーになり、赤土に混じった石の粒がはぜて面白い風合いを醸し出します。
成形は底をまるく仕上げ、側面をコテで整え、黒呉須で描いた絵が目に入りやすくなるよう意識したカタチに仕上げました。文様は九州の有明海に棲むムツゴロウがモチーフです。実際のムツゴロウは干潟で遠くからしか見ていませんので、図鑑から骨格や形状を確認し、写真や映像から体の動きや生態をシミュレーションして描きました。
この作品の見所は泥からひょっこり顔を出したムツゴロウです。伝統工芸という枠の中で、使われる方がにっこり微笑むような、そんな温かみのある作品を作り続けたいと思います。 

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初入選

「彩泥円葉紋鉢」中嶋敬信
(陶芸)

第一に作品は「鉢であると同時に、塊である」というところから、装飾を考えました。焼き締めなので、模様がとぎれてはいけないと思いました。今回は、低木の葉をイメージしたので、大小四種類の大きさの円を、思いつきで、全体に、置いていきました。マスキングをして、色泥を、塗っていくわけですが、土台が、完全に乾いているので、あまり濃い泥はヒビわれの原因になるし、筆跡が、大きくなってしまいます。彩泥において、泥の濃さはとても大事です。何度も塗り重ねるのですが、回数が少ないと、色が出ません。塗り重ねすぎると、筆跡がついてしまいます。
もう一つ悩んだ事は、マスキングをした時に起きる、色と色とが重なる時にできる、小さな山のような線です。これについては、全体が、淡い色合いなので、形と色の境をはっきりさせるために、あえて少しのこすことにしました。ご観覧ありがとうございました。

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初入選

練込大皿「万華鏡」森寿光
(陶芸)

私の作品は、絵付けでなく、異なる色の土を重ね合わせたり、混ぜ合わせる事で模様を作り、成形する「練込」という技法です。その発祥は中国の唐(618年~907年)時代に遡ることができ、更にその模様の源流はメソポタミア文明(BC25世紀頃)のガラス細工にも見られます。今回の作品は、その源流の影響が残されているイスラム美術からアイデアを得ました。この放射線状のアラベスク模様は有機的な生命やリズムを体現するもので万華鏡の心地よい世界を醸しだすものと考えています。
素地は半磁土です。皿面一面に模様が広がる為、派手になりすぎないようあえて顔料は土量比1%に抑え、静かな光として表現しました。練込技法は、均一に土を締めることができないため、乾燥時のゆがみと焼成時の割れとの戦いになります。
常に新しいアイデアと実験を繰り返す日々ですが今回の入選を機にさらに練込技法を極めていきたいと思います。

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初入選

刺繍着物「彩雲」竹内功
(染織)

作品をつくるに当り、まず、図案を考えます。私は幾何学模様が好きなので、その中で考えて行くのですが、これが一番、時間のかかる大変なところです。この作品の基本は六角形の亀甲模様です。亀甲を三角に分けその線に長短をつけ、糸の色にも濃淡をつけ、尚かつ模様の中心を密に集めて立体的な変化を表し全体の動きを求めました。縫い方技法は「駒ぬい」です。普通、駒ぬいというと金糸を使う事が多いですが、この作品は色糸を均等でない撚り方をして、デコボコした感じを表す片撚り糸を作り仕上げました。蛇腹撚りともいわれ昔から扱っている一つです。片撚りした糸を木製の駒と呼ぶ道具に巻きつけ細い同系色の糸で、とじ上げながら進めます。全体像が見えてくると作品名を考え、イメージします。日光が雲の水滴で回析し生じる自然現象と絹の糸の艶やかな輝きとが重なり、光の当たり具合で変化する糸の妙、縫い方から自然と表われる立体感。「彩雲」と決めました。
観る時に少し動いてもらい角度の違いで刺繍の見え方が異なる妙を伝えたいです。 

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初入選

組紐「竹取物語」平田竹峯
(染織)

古来より伝わる丸台を使い、五十六個の玉で組み上げました。竹取物語については、主人公のかぐや姫ではなく、今回は老夫婦にスポットを当ててみました。真面目に正直に生きてきた老夫婦にとって、かぐや姫を授かったことの深いよろこびと、娘を大切に育てていく過程に思いをはせて作成致しました。 

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初入選

佐賀錦袋「土筆」福川美亀
(染織)

佐賀錦は素朴で単純な道具を用いて創り出される織物です。
経糸は和紙に金、銀、漆等を載せて細かく裁断して用います(経紙)。
緯糸は絹糸を糸巻き(網針)に巻き取ります。
竹ベラで経紙を上下させて、網針を織り上げてゆきます。
織り機の巾、糸の種類などの限られた条件等の中で経と緯とのバランス、色の重なりを考慮し、表現していきます。
作品の「土筆」は、春の田舎の畦道でみつけた土筆の嫋やかな想い出を現わしてみました。
竹ベラを動かす毎に、自然の営みに触れている様な心持ちになり、充実の時を得て制作いたしました。 

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初入選

打込象嵌花器「黄落のとき」佐藤奈々美
(金工)

ゆったりと上へと広がる樹木をイメージして制作をしました。
一枚の板を金鎚で立体に成形する鍛金という技法を使い、やわらかい色や雰囲気を表現するため本体を純銀、模様のイチョウは黄銅を使用しています。
模様の色の差は、金属の着色行程である煮色での煮込み時間の差です。黄み・青み・赤みがかったイチョウの葉は、見る角度によっても変化が楽しめる仕上りとなりました。
今後もより多彩な技法を組み合わせ、鮮やかな表現ができるよう制作に励みたいと思います。 

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初入選

「樺結氷文木画飾箱」島田晶夫
(木竹工)

私が工房を構える北海道の石狩郡当別町は、道内でも雪の多い地域のひとつです。冬の訪れも早く、まだ雪の積もらない頃、キリっと冷えた早朝の水たまりに薄氷が張ることがあります。その自然の作りだす美しい文様にハッとさせられ、この白く、凍える氷の様子を木の色と木目を使い、不正確にならんだ三角形をいくつも描くことで表現したいと考え、制作したのがこの飾箱です。
使用している材はいずれも北海道の木で、「白樺」と「セン」です。この木の持つ白い色、そして木目の特徴を生かし、雪や氷の白さ、儚さ、そして光を浴びてキラキラと輝く様子を表現できればと思いました。飾り箱の表面、蓋の裏、箱の底にも同じモチーフを描いています。
木と向き合い、木が持つ本当の色の深みや木目のおもしろさ、そんなことをこれからもっともっと追求したいと思っています。 

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初入選

木芯桐塑嵌込「佳き日」小島尚子
(人形)

「人形に心あり 」を念頭に人形制作を続けています。
今回の作品は、結婚を控えた年頃の女性の自信、喜び、幸福感を表現したいと思いました。清楚かつ、匂い立つ色気が感じられたら幸いです。
ボディは、木芯桐塑です。何度も何度も桐塑で削り、足し、時間をかけて練り上げました。
着物部分は、嵌込という技法を使い、布の厚さに合わせ、石州和紙の枚数を増減させ下地を作り、一つ一つ布でくるみ、パーツを作成し、貼り合わせました。
主調の青二色は、既製の古裂では無い色だったので、岩絵の具と水干を呉汁で溶いて刷毛染した布を使用しました。
はっきりして若々しさが表現出来たと思います。 

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初入選

有線七宝蓋物「粋」深作千春
諸工芸

初入選しましたこの作品は、黒を基調とした幾何学的でモノトーン調の色彩で作りました。
蓋の方は、風が吹き込んだり、くるくると舞う様、ひらひらと風に遊ばれる様など、様々な情景を表しています。
身の方には、蝶のようなリボンが結ばれ、蓋とは少し違った感じの模様にしています。
バックは黒と白の梨地にして、模様が浮き出るようにしました。
モノトーンのみだけですと物足りないので、各模様に一点だけ赤を配色しました。その一点の赤があることによって全体が引き締まり、かつ華やかさが増したように思います。
覆輪は古美仕上げにし、全体の模様が引き立つようにしました。 

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