東京都知事賞

小紋着尺「格子取り鮫万筋重ねぼかし文様」 西藤裕子

このたびは東京都知事賞に選んでいただき感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。そしてこれまで続けてこられたこと、ご指導、応援していただいたこと全てにも心から感謝を申し上げます。
この作品は鮫柄と万筋柄が重なるところ、重ならないところ、無地のところと3変化していく様子を染めました。格子の大きさでグラデーションになるよう新たに型紙を2枚手彫りし、鮫、万筋それぞれの型紙と重ねて柄付けすることで柄の出る部分を限定しました。型紙の重ね付けは力加減が難しく、特に鮫柄の上に色糊で柄付けした万筋は少しのミスも許されない緊張感で、一反柄付け終わるのに何歳か老けた気持ちになりました。手の圧のリズム感がゆるやかに感じられる柔らかい雰囲気の仕上がりになったと思います。
今後も型紙ならではの柄の面白さが伝わるような作品を模索していきたいと思います。


朝日新聞社賞

象嵌鉄盒子「美しい星」 市川 隆

この度は「朝日新聞社賞」を戴きまして誠にありがとうございます。ご指導いただきました師をはじめ、支えてくださった先輩方に心より御礼申し上げます。
今回の作品は宇宙創成をイメージし、鉄地のボディに銀箔と銀線を象徴的に配して制作しました。
器物の角の部分にかけては、布目が上手く切れていないと箔が嫌がるので特に神経を使いました。又、線象嵌に関しては元来からあるやり方ではなく、より高肉になる様に独自の技法で仕上げてあります。
これからは金具などの細かな作品も制作していきたいと考えています。
今後ともご指導ご鞭撻ほどよろしくお願い致します。
 


日本工芸会賞

透編花籠「霞」 田中 旭祥

昨年移転しました住地は、標高千四百の寒山で雲が低く明け方には朝霧が発生します。
長年続けてきました透編み技法でその情景を表現できないかと制作いたしました。
従来よりも竹巾・厚みを細く・薄くして黒染めヒゴと黄蘗で染めた黄ヒゴを交互に組み合
わせて茫洋とした様子になればと思いました
作品制作におきましては出来るだけシンプルなフォルムを心がけ、繊細さと力強さを持った作品の中に自己の感性を綴じ込められればと思いつつ制作いたしました。
支部展では久々の受賞で大変嬉しく思っております。
竹という自然素材に対峙出来る事に感謝しつつ精進したいと思います。


三越伊勢丹賞

乾漆螺鈿蒔絵飾箱「芊華」 馬 莉

自分の作品が受賞したことを知り、驚きと喜びを感じました。というのも、異国の地で学ぶ留学生として、このような名誉ある賞を受賞できたことを光栄に思ったからです。また、私の長年の努力が認められ、漆芸の道を選んだことが正しかったということが証明されたようで嬉しかったです。
この作品は「芊華」といいます。「芊」は植物が茂っている様子を表し、「華」は様々な種類の華や葉を指し、全体として「芊華」は自然や生命の活力や勢いを意味し、この生き生きとした生命の美しさも表現したいと思いました。
箱は上部が丸く、下部が四角、「天円地方」を意味します。四隅がやや外側に反っていて、どうすれば合口を合わせられるかということが作品制作の難しいところでした。作品は星空を通して豊かな世界を見つめ、躍動する宇宙の中で心を解放するというテーマを表現しています。


川徳賞

献保梨小簞笥 水野咲衣花

この度は川徳賞をいただき誠にありがとうございました。ご指導くださいました先生方、諸先輩方に、心より感謝申し上げます。
今回の小箪笥は、小ぶりですが柾目の綺麗な献保梨があり、それを中心に据えて形にしていきました。倹飩蓋を開けると楡の抽斗が四杯入っております。あまり重たい印象にならない様に細部の形や拭き漆の加減を調整致しました。
現在は知識、技術ともに大変不足を感じながらもどうにか制作している状況です。道のりは長いですが、美しいものがつくれるように真摯に努めて参りたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。


アサヒグループ芸術文化財団賞

重ね金波文香炉 浅井 盛征

最近まで若手だと思い込んでいたのに、気が付けば後期高齢者になってしまいました。目が霞み集中が無く技術も低下、なによりも体力の衰えを感じ自分自身にいや気が差す日々です。
しかしながら地道に追及してきた重ね金の技術が評価され賞まで頂くことができ、大変嬉しく、又気力がわいてきました。
もうしばらく若手の仲間に入れてもらい精力的に物作りに励みたいと思います。


日本工芸会東日本支部長賞

乾漆朱塗鉢 築地 久弥

私が初出品した展覧会がこの支部展で、もう40年以上前のことです。一時期石川支部に在籍した14年間を除き出品を続け、賞も頂きました。現在の私はひとえに支部展を始め、日本工芸会主催の展覧会の出品活動が基となり成形されていると言ってもよいでしょう。
しかしながら美術、工芸界も多様化の波で状況が40年前とは大きく変わってきました。
私の制作理念も少しづつ変化してまいりましたが、伝統技法の上に立った造形表現は何ら変わりありません。
今回の作品のモティーフはリュウキュウアオイガイという二枚貝で、いつもながら有機的形態を乾漆で作り、朱の艶上げで仕上げました。


奨励賞

練込絣文組皿 保屋野 武

この度は思いがけず奨励賞をいただき、誠に有難うございます。
私は陶芸を始めて五十年余りになります。今年八十四才になり気力、体力共に衰え、やきものづくりもそろそろ引退かと感じる昨今ですが、この奨励賞はもう一寸がんばれと云う叱咤激励と受け止めております。
練込との出会いは三十一才の頃たまたま第2回日本陶芸展で松井康成先生の作品を拝見したことで、以来五十年以上練込にハマッテおります。
私の練込は「土で絣を織る」がキャッチフレーズで練込で着物の絣文様を表現しています。
作り方は数種類の練込文様の部品をつくり、これらを貼り合わせて作品にしております。
練込は失敗の多いつくり方で、いまだに失敗をくり返していますが、それだけに良い絣文様が出来た時のうれしさは格別で、この年になっても止められないでいます。
我国の練込は世界的にもレベルが高く多彩なものですが、まだまだマイナーな分野なので微力ながら練込の魅力を伝えてゆければと思っております。


奨励賞

おぼろ型染着物「夕映の空」

此度は、思いがけず奨励賞を頂きまして誠に有難うございます。これまでご指導下さいました先生、先輩の皆様や制作を支えて頂いた多くの方々お蔭と感謝申し上げます。
今回の「夕映えの空」は刻々に変わる空と雲の様子を表現した作品です。日没前後のほんの数分間、西の空で繰り広げられる陽光綾なす光景は沢山の感動を与えてくれます。
おぼろ型染は沖縄紅型をルーツに、二枚以上の型紙を使用して奥行きのある表現ができる染色です。未だ未だ課題は多いですが、今回のこの受賞を糧に独自の表現や技術を磨き魅力的な作品を創っていきたいと思っています。
今後もご指導下さいます様にお願い致します。


奨励賞

乾漆螺鈿蒔絵箱「羽ばたき」 藤橋 郁美子

この度は、奨励賞を頂きありがとうございます。私の作品は、日々の生活の中で、カッコいいなァ、面白いなァ、奇麗だなァと興味を持ったその時々の気持ちを込めて、私色に表現したいと制作しているので、この賞は「楽しく生活していて良いね。」と誉められている様で嬉しく思います。
この作品は、螺鈿を漆面に埋め込まずレリーフ状にし、今まで通りに磨くと漆面も螺鈿も強すぎるので、地を和紙にし螺鈿も磨く事をせず、全体に艶なしに仕上げました。そして、今まではシャープペンシルを使って図案を起こしていた事で、どうしても図案が硬くなると感じていたのを三年ほど前から毛筆に変えました。まだまだ思う線はけていませんが、柔らかな線を出せる様になって来たと思います。ペンから毛筆に替えるのは、右利きを左利きに替える様なものなので大変ですが、賞を頂き誉めて頂くと根が単純なので、もっとがんばりたいと力百倍になります。ありがとうございました。


奨励賞

向日葵 ブローチ 岡原 有子

一昨年の金工展に「向日葵」を銀の地金で作り出品しましたが、思うように出来なかったので今回は赤銅で再挑戦しました。
一回目の時より花芯部分に力を入れ自分流にアレンジして作り、わりと気に入った意匠になりました。
花弁は生き生きと表現したい、と思いながらそれが難しく苦労しました。金鍍金を施した後、所々むいて赤銅の地金が見えるようにして色合いに変化をつけました。
毎回、対象物と戦っている時と、反対に仲良く優しい関係で仕事が進んで行く時とがあるようです。これからもその両方の気持ちを味わいながら作品作りが出来たら、と思っております。
ありがとうございました。


奨励賞

御蔵島桑小机「結び」 島崎 敏宏

出品し始めて半世紀
日本には「江戸指物」と言う伝統木工芸文化が有る。その技術を基にこの伝統工芸展に父と一緒に出品し始めて半世紀が経ち、その父も二十年くらい前に亡くなり、その頃から「江戸指物」はこうで有るという執念に取り付かれた作品作りをして来たが、何故かこの工芸会と言う組織の中では「残滓」と言われ、のこりかすの評価しか受けない。それは技術力はそこそこ有れば良く、芸術性・創造性の方が重要だと言う考えらしい。芸術性の評価には個人差が有り、良いと言う人がいれば必ず悪いと言う人がいるはずだ。技術はそうではない。見る人が見れば一定の基準で評価出来る工芸は技術が先に有り、それに伴って創造性・芸術性が付いて行くと思っている。
「江戸指物」の世界には父の時代、自信を持った者は指物師・桑物師と称していた。今はその師を付ける事すら時代遅れの様だ。師がまずければ医師・調理師・美容師などはどうか、師とは専門の技術を職業とする者で有り、そう言った所から折角残された文化が薄らいで行く。
私は江戸指物師と言う言葉に自信と誇りを持っている。
最後になりますが、同じ部会内に一世代近い若い審査員の方が私と同じ美的価値観の基に気を遣い骨を折って賞候補に出してくれた事に救われた思いがした。


奨励賞

木芯桐塑嵌込「想う」 小島 尚子

人形を作り始めて丁度四十年(途中、十年ちょっとブランクはありますが)の節目に、今日の賞をいただき光栄でございます。
最近は、師匠をはじめ先輩方が収集した古裂が、たくさん手元に集まります。
これらの布もそうですが、伝え与った技術や感性を受け継ぐ責任を感じる今日この頃です。
「人形に心あり」を念頭に、毎回苦しみ、もがきながらも、見る人の心に届く人形を作る努力を重ねてまいりたいと存じます。
皆さんに感謝です。ありがとうございました。


奨励賞 硝子花器 彩りの記憶「朝靄」 大槻 洋介

この度は奨励賞を頂き、ありがとうございます。

昨年12月、金工作家である母、大槻昌子が永眠致しました。
工芸会の皆様との親交は母にとって掛け替えのない有意義で楽しい時間であったことと思います。ありがとうございました。
本展覧会は、長年出品してきた母の最後の出品の東日本展になります。
最後の東日本展に私が受賞で見送る事ができた事を、大変嬉しく思っております。
今回の受賞作 硝子花器彩りの記憶「朝靄」は、近年取り組んでいる独自の技法、色彩積層ガラスによって制作いたしました。
通常の熔解したガラスを吹くことによって器の形状を作る技法「吹きガラス」とは異なり、
一色一枚を鋳造によって厚い色板ガラスを鋳込み、平面研磨の後積層し、電気炉内で昇温し熔着させ、再加熱炉で息を吹き込みます。最終的に形状を削り出し、磨き上げ、表面を曇りガラスに仕上げました。
穏やかに漂う朝靄の風景を感じていただけたら幸いです。
これからも、技術の研鑽と表現の可能性を追求して行きたいと思います。
ありがとうございました。